キャバレーの舞台裏
今から20年程前、母と、ホテルのロビーの化粧室で、
一緒に鏡を目の前にしたことがある。
家族ぐるみの知人とのディナーの前に、
「トイレに行っておくね」、「あ、私も行っとこうかな」となったのだ。
「なんかあたしたち、キャバレーの楽屋で出番待ちしてる女みたいね」と、母。
キャバレーって...(古い 笑)
並んでみると、母と私はやはり全く違う。
外見も、雰囲気も。
色黒、大柄、体育会系で、全てにノリと根性を求める私と、
色白ですらっとして女らしく、上品な母。
でも、時々、こういうことさらっと言ってのける、面白い人なのだ。
「わたし、今、凄いモテ期でさ~。」
どういう話の流れでそういう話題になったのかは知らないけれど、
ピカピカの20代だった私は、母に言った。
「へえ」
母は笑って、またさらっと一言。
「これぞ、という一人にモテるほうが凄いと思うけどね」
どうでもいい男に沢山言い寄られて、統計上でナンバーワンになるより、
自分が心から大切に思う人に、
「貴方がオンリーワン」と言ってもらえる女になるほうが難しい。
現代的に言うと、Facebookに登録された男友達が何千人いたところで、
その中の誰にも「本命」と思われていないとしたら...
母はあの時、決して母親顔して、
「はしたない!一人にして、結婚しなさい」とたしなめたかった訳ではない。
若い女ざかり(?)の娘に嫉妬したわけでもない。
そんなつまらないことは言わない、超越した女なのだ。
私は、母の言葉の意味を、20年後にしてやっと理解しつつある。