【たくましく美しく生きる術】Blog by Nina S.

人生、40歳からが本番 ~ パワフル&エレガント

【華麗な男たち】

今日の一歩

男性と過ごして、女っぷりを上げよう

 

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昔々の話...

 

20歳そこそこの若い私は、この国の5つ星ホテルの高級レストランで、ウェイトレスの見習いとして働いていた。

 

普通だったらそう簡単には入れない職場だが、当時は日本語が出来る人材は珍しく、特別に入れてもらえたのだ。

 

この国はマイナーで目立たなく、色々なところが世界基準から見ると遅れている。

しかし、流石にこのクラスの高級ホテルともなると話は別だ。

日本や他の先進国に劣らないレベルのサービスを提供していた。

 

外資系の有名チェーンということもあり、当時でも社内教育はかなり徹底しており、

始業前のグループごとのミーティングや朝礼などもしっかり行われていた。

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そこで、始業前に、うちのマネージャーがいつもスタッフへ放っていた言葉を今でも覚えている。

 

「いいか、諸君。サロン(レストラン)は舞台だ。

ランチでもディナーでも、コアタイムはたったの2~3時間だ。

 

君達は、俳優だ。

その3時間の間、決して気を抜くんじゃない。

 

常に優雅であれ。上質であれ。

お客様の目に耳に、麗しい存在であれ。

 

いくら現代社会がカジュアル支持になろうとも、不変のエレガンスというものがある。

 

上記のサロン・マネージャーは、当時40代。

短髪・漆黒のオールバック、燕尾服の細身の長身、大きな目。

古き良き時代の映画から出てきたような、典型的な伊達男だった。

 

奥さんと息子が一人いるとは聞いていたが、

ハウスキーピングの女の子たちに愛想をふりまいて陰でキャーキャー言われるような、

そして、その中でも群を抜いて美しい熟女と噂になるような、そんな男だった。

 

そんなプライベートでは曰く付きのドンファンでも、仕事はバリバリとこなしていた。

自分の仕事が何よりも好きで、サロンが好きで、プロフェッショナルで

常にジョークを言っては周りも笑わせ、その場に華を咲かせる天才だった。

 

部下である20~30代の給仕達は、彼の言葉に挑発されて、皆背筋を伸ばす。

 

ルックスで雇ったんじゃないかと思われるほど、長身・美形の男が約10人、

朝礼時に集まり、短髪・背広でビシっと決めるその姿は、ため息ものだった。

 

そして

 

夜の部に時々顔を出すレストランの支配人。

彼が来ると、その存在感に、スタッフのみならず客も圧倒されたものだ。

 

皆、彼が来ると喜ぶ。

その場に居合わせた幸運を、誰もが幸せに思う。

ここまでくると、ほとんど有名人と変わらない。

 

50代後半。

豊かな銀髪をキチンとセットし、グレーの三つ揃いの上質なスーツを完璧に着こなす。

どんなときにも慌てず、威厳と貫禄と、落ち着きの見本のような男だった。

 

支配人は、ホテルと繋がっている裏口から入る従業員スタッフとは違い、レストランの正面玄関から突然、お客のように入ってくる。

 

給仕の顔に緊張が走り、お客が手を挙げて彼を引き留める。

「Mr....., お久しぶり!」「Mr...., ご機嫌いかが?」

 

彼はなじみの客と2、3分ずつ雑談し、新しい客にあいさつを済ませると、

大抵バーの右側に座り、バーテンダーとマネージャーと3人で、あれこれ話し始める。

 

支配人が信頼を寄せるバーテンダーは、40代後半

背は低いが、がっしりとした体格に、金髪、緑の目と、低い低い声。

お喋りなマネージャーとは好対照な、クールで大人の魅力が漂う男だった。

 

「自分は別格」と言わんばかり、若い給仕の男連中にはわざと冷ややかな態度だったが、私には、柔らかな視線を向けて静かに話し、娘のように扱ってくれた。

昔はパイロットを目指していたが、目が悪くて挫折したと語ってくれたこともある。

 

私は支配人が来ると、エクスプレッソよりもっと強い、リストレットというコーヒーをお出しするように、マネージャーに言われていた。

 

由緒ある豪華な彫像品を飾り、テーブルや椅子、絨毯の類も、濃厚でどっしりとしている。それに、薄暗い空間。食事が載せられるテーブルを照らすランプ。

 

そんな時代を錯覚させるサロンの中で、

支配人は、エクスプレッソを半分の量にした強い強いリストレットのソーサーを

いかにも高そうな指輪をはめた指でつまみ、グイっと一飲みする。

 

その度にいつも、映画「ゴッドファーザー」のセットに入ったほうな感覚に陥ったものだ。

何時間もサロンで過ごすことがあっても、何かを食べている所は見たことがない。

 

余りにも完璧で俳優然としていて、現実味がなく、

この人ははたして自分と同じ人間だろうか、と思ったものだ。

 

家族がおり、当たり前に普通の生活をしている人だとマネージャーに聞いたことがあるが、一時も崩れない横顔を見る限り、とてもとてもその姿は想像できなかった。

アイドルや女優がトイレに行くところを想像できないのと同じ感覚だ。

 

 

あれからもう20年以上の年月が経つ。

 

私は、そのレストランで、唯一の女性スタッフだった。

当時の私は余りにも子供で、バーテンダーのみならず、マネージャーも支配人も、父親のような感覚で接していた。

彼らにとっても、私は単なる「お手伝いの女の子スタッフ」でしかなかった。

 

でも、今思い起こせば、彼らに「大人いい女」になる教育を沢山受けていたように思う。20代の小娘には気づけないほど、なんとも豪華で、贅沢な環境だった。

 

サロンに食事に来る客層は、大抵外国人か、現地の裕福層だ。

女性たちは、そろって着飾ってくる。モデル並みの美女が多い。

サロンの男たちは、そういう「美女」達には慣れ切っている所があった。

 

それでも、給仕が「おっ!」とつい声を漏らし

支配人とバーテンが視線を上げ

マネージャーが対応に飛んで行くような特別なオーラを出す女性が、相手の男性にエスコートされて優雅に入ってくることが時折あった。

 

 

 

当時の彼らと、恐らく対等に話せる年代であるアラフォーの今。

 

バーにもたれ、リストレットとシガレットを味わう支配人と

にこりともせず、静謐に、淡々とマルティーニを作るバーテンダー

そして、プレイボーイな笑みを浮かべる、サロン・マネージャー

 

まるで少女漫画の登場人物のような、しかし確かに実在した、華麗な男達

 

その顔を、佇まいを、20年経った今でもはっきりと思い出すことが出来る。

 

さて...

果たして、今の私は、当時の彼らがリアクションを起こすような女性になれているだろうか。

 

今となっては想像上だけの話だが、

それが今でも私の目標であり、美意識向上に役立っている。